「…あのですね………」
言いながら、拓海は困ったように、細く長い溜息をついた。
ずっしりと、背後から伸し掛かるように体重を預けてくるのは、自分よりガタイのでかい男である。
彼の両腕はやんわり、拓海の首や肩に絡みついている。
その力は緩いが、それでも、絡めた腕を離す意思はちっともなさそうだった。
拓海とて、それが煩わしいのではない。むしろ、暖かい素肌の感触にささやかな幸せを感じてしまう。
このままでいたい、なんて思ったりもする。
けれど、いつまでもこうしていられるわけではないのだ。
「退いてくれませんか…?」
重いんで、と拓海が遠慮もなく告げると、どうして、と物問いたげな表情で、彼は首を傾げた。
そして無言で、不思議そうというより、いかにも不満がありますといった目線を、こちらに向けてくる。
拓海はもう一度、今度は小さく溜息をついた。
二人がいるそこは、古い家屋にあるやや狭めの部屋だった。
ベッドが一つ、タンスが一つ、机と椅子が一つずつ。妙にこざっぱりとしているが、整理整頓されているのではなく、それ以前の問題として物自体が極端に少ないせいだ。
この部屋の持ち主の名は、藤原拓海。
今ここにいるのは持ち主たる拓海と、拓海に纏わりついている男の、二人だけであった。
もっと詳しく状況を説明すれば、体を密着させた男二人が陣取っている場所は、窓側の壁にピタリとくっつけられた、さして大きくもないシングルベッドの上、である。
拓海がくたびれたジーンズを履いてシャツを軽く羽織り、ベッドを降りようとするところへ、まだ何も着ていない彼がそれを遮ろうと、おんぶお化けになり果てた──と、つまりはそういう状況なのだった。
//Selection//
・啓介version
・涼介version
.....続く
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