わがままな彼 

2001.11.27.up

「…あのですね………」
 言いながら、拓海は困ったように、細く長い溜息をついた。
 ずっしりと、背後から伸し掛かるように体重を預けてくるのは、自分よりガタイのでかい男である。
 彼の両腕はやんわり、拓海の首や肩に絡みついている。
 その力は緩いが、それでも、絡めた腕を離す意思はちっともなさそうだった。
 拓海とて、それが煩わしいのではない。むしろ、暖かい素肌の感触にささやかな幸せを感じてしまう。
 このままでいたい、なんて思ったりもする。
 けれど、いつまでもこうしていられるわけではないのだ。
「退いてくれませんか…?」
 重いんで、と拓海が遠慮もなく告げると、どうして、と物問いたげな表情で、彼は首を傾げた。
 そして無言で、不思議そうというより、いかにも不満がありますといった目線を、こちらに向けてくる。
 拓海はもう一度、今度は小さく溜息をついた。
 
 
 二人がいるそこは、古い家屋にあるやや狭めの部屋だった。
 ベッドが一つ、タンスが一つ、机と椅子が一つずつ。妙にこざっぱりとしているが、整理整頓されているのではなく、それ以前の問題として物自体が極端に少ないせいだ。
 この部屋の持ち主の名は、藤原拓海。
 今ここにいるのは持ち主たる拓海と、拓海に纏わりついている男の、二人だけであった。
 もっと詳しく状況を説明すれば、体を密着させた男二人が陣取っている場所は、窓側の壁にピタリとくっつけられた、さして大きくもないシングルベッドの上、である。
 拓海がくたびれたジーンズを履いてシャツを軽く羽織り、ベッドを降りようとするところへ、まだ何も着ていない彼がそれを遮ろうと、おんぶお化けになり果てた──と、つまりはそういう状況なのだった。
 
 
 
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.....続く     

   

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