口を閉ざしたまま答えようとしない宮田の表情を窺いながら、一歩は濡れた自分の指を宮田の体内にゆっくりと埋めていった。
「…っっ………」
前触れもなく与えられたそれに、全身が痛みと歓喜に震えるのを、宮田は感じた。
今度も何とか、声は出さずにすんだけれど。
それでも。
慎重な動きで中に入った指がゆるゆると出し入れされ、僅かに綻べば次第に指の本数が増える──その、体内で蠢くものが自分に与える苦痛と快楽を、宮田は追わずにいられなかった。挙げ句、柔らかな内壁を幾度も擦られ、奥まったとある箇所を刺激される感覚に囚われて。
結果として、ゾクリと肌が粟立つのも自分のモノが反応するのも………決してとめられはしないのだ。
どうすれば、とめられるというのか?
無理に決まっている。
誰もが持つ生理的本能と。そして──この男なら、と自ら心を委ねた事実と。この二つが、宮田の目前に横たわっているのに。
…何よりも、今現在、宮田の体がそろそろ切羽詰まった状態だというのは見ればアキラカで、言うまでもないことだった。そして、それをわかっているのは、何も宮田自身だけではない。
彼にしてみればムカつくことだろうが、当然の如く一歩だって理解している。何せ『見ればわかる状態』なのだから。
宮田は、それを承知の上で、なおも。
──意地でも声など聞かせるものかッ!!
そう、頑として譲らない所存であった。せめて、我慢できる、ギリギリの線まで。
それが早くも崩れ始めたのは、ひょい、と一歩が宮田の両腕を持ち上げたときである。
「な…っ?」
宮田の胸の前にあった手錠で繋がれた両手首を、一歩は自分の首の後ろに持っていったのである。一見すれば、宮田の手が一歩の両肩に添えられているようにも、一歩の頭を抱き寄せているようにも見える。
「こうすれば、楽なんじゃないかな、と思って」
にっこり微笑む一歩に、急いで宮田が腕を元の位置に戻そうとしたのだが、手首に一歩の片手が掛かっていてビクともしない。
この野郎、と宮田は心の中で毒づいた。
自分が今まで声を出さずにすんでいたのは、手で口元を抑えていたからだ。唇を噛んで歯を食いしばったところで、漏れるだろうから。
内心歯がみしている宮田のそんな心情を多少なりとも理解しているのか、射すようなきつい眼差しに対して、一歩は苦笑でもって応えた。
「…あの…だってここ、安定悪いから…」
言いながら、一歩はソファの前に膝立ちのまま、宮田の両足を軽々と掬い上げた。これには宮田も慌てざるを得ない。
受け入れるための前準備を怠っては、後でヒサンな現実が、宮田を待っているだけである。
「ちょっ、待てって…っ………ぅあっっ…」
熱い塊があてがわれたかと思うと、それが体の中に潜り込んできた。
怯む間もない。
どんなときも、この瞬間ばかりは、宮田は余裕しゃくしゃくではいられない──それほどの、生々しさ。火傷しそうに熱いそれは、強引に肉をおし拡げ、さらに奥へと侵入してくる。
しかも、今日はあまり解されていなかったのか、痛みの方が先に立つ。…それとも、不安定な態勢で、余計な力が自分の体に入っているからだろうか。まだ先端が潜り込んだだけの今の状態が…かなり、きつい。
「っ…い、痛い? ごめん、もう少し…」
──少しも何も、お前が抜けば、オレは痛くねえんだよっ!
宮田は心でそう叫びつつ、一歩の首に半ばしがみついて、これ以上力まないように深呼吸を繰り返した。
…関係のないことだが、どうやら宮田の両手の位置は、一歩の首後ろという今の場所で正解のようであった。
それはさておき、この瞬間の痛みに関して言うならば。
宮田だけでなく、一歩の方も相当に痛いはずなのである。これだけ宮田が苦痛を伴っているのだから、おそらくそれ相応には。
…が、全てはこの金属製の不粋なものが自分の手首を戒めているためであろうから、そんなことは、この男の自業自得だというところか。
そんなふうに考えた途端、またも宮田の中で、腹立たしさが再燃した。今まで少々失念していたのだが。
──元はと言えば、こんな手錠があるから………っ!!
そんな宮田の思考も、一歩にいきなり最奥まで侵され、霧散した。
「あう………っ」
ビクン、と衝撃に体が大きく跳ねる。同時に漏れてしまった自分の声を聴いて、宮田はカッと顔を赤く染めた。
深く身を埋めたまま、宮田の足を抱え直して態勢を整え、一歩は少し困ったように微笑した。
「…加減、できなくなっちゃうよ…? そんな顔されたら、さ………」
言って、一歩は宮田の喉元に舌を這わせ、軽く歯を立てた。
.....続く
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