そう、始まりは確か──
絡みつく強い視線。
啓介の、挑むような瞳。
それ、だった。
視線を独占しているのが心地よくて。
…でもそれだけでは、足りなくなって。
もっと、見て欲しいと思うようになった。
一部分だけでなくて…鋭いその視線で、内側をも透かし見てくれてたらいい。
もっと、ちゃんと『オレ自身』を見て欲しい──
それは、自分をまともに見ていないと、拓海が無意識に思っていたからなのだろう。
でも、そうじゃなかった。
悪口ばかりだった先程の言葉は、考えてみれば親友のイツキによく言われることとそっくりだった。
啓介は、表面だけじゃなく、ライバルとしてだけじゃなく、きちんと藤原拓海という人間を見ていたようだ。
それがわかった。
知らなかっただけだったのだ。
そう思うと、嬉しくて、どこかこそばゆくて。
それから、自分の鈍さ加減にも、少し笑えた。
「でも、藤原は、逆に何にも知んねーよな」
突如として話題が微妙にすり変わる。
ハタと我に返って再び啓介の方を向いたが、いきなり過ぎて、拓海にはついていけなかった。
それに気付いているのかいないのか、啓介はそのまま言葉を連ねた。
「人のこと、全然見てねえし。…たとえばDのメンバーにしても、誰が何やってるとか、何考えてるとか、興味ねえだろ、全然」
んで、さっきだって、オレに図星指されてむかついたくせに、反撃できないでやんの。オレんことゼーンゼン知らねえから。
啓介に鼻で笑われる。
ムッとしたが、それより以前に、拓海は違うと思った。
…言われる通り、啓介のことはよく知らない、けれど。
啓介に関しては、興味がないという枠には絶対あてはまらない。それは、自信を持って言える。
──だって、こんだけ見てんのに。
そんな考えが頭を過ぎって、アレ、と拓海は思考を中断させる。
『見てる』?
誰が、誰を。
逆じゃん。だって…啓介さんがオレを、だろ………?
「…おーい、聞いてっか?」
「………聞いてますよ。………でも、なんか…違うと思うけど」
「…どこが」
またしゃべんなくちゃなんないのかー、と諦めた拓海は、ハァと軽く溜息を吐きながら言った。
「…そりゃー、確かにオレ、よくボケてるって言われるけど…アンタにそこまで言われるほど見てねーことはねーです」
キッパリ断言したものの、少し自信がなくて、最後の最後にボソッと多分…とつけ加えると、何だそりゃ、と苦笑で返された。
「見てるって、お前がァ? ウッソだろ。何見てんだよ」
だから、アンタだって。
間髪入れず、心の中で突っ込んでから、拓海はアレ、とまたもや思う。
何だソレ。
オレ、啓介さんのこと、…見てた?
そう思ったよな、今。
オレが、啓介さんを………
………………逆じゃなくて?
拓海は、珍しいものを発見したかのような面持ちで、改めて啓介を振り仰いだ。
今、拓海を見る啓介の瞳は、敵意に満ちている種類のものではない。誰にでも向けるような、穏やかなものだ。
そんな啓介の視界に、今は自分だけがいる。
──啓介さんのあの視線には、オレ、気付いてた。
…鈍いこの自分が、である。
それはあくまで、元々啓介自身に存在感があるから、あまりに強く鋭い視線だから、と考えていた。
だが、そうではない…のかもしれなかった。
啓介さんがオレのこと見てるときは、つまりオレも見てるってこと…なんかな。
まあ…そうだよな、間違ってはないよな。気付いてんだから。
………………って………アレ?
…てーことは、だ。
啓介さんと同じくらい、オレも啓介さん見てたってこと?
そうなのか?
…なんか、そんな気がしてきた…
もしそうだとしたら、オレ、すっげー啓介さんのこと見てたんじゃん!?
恥ずー、オレ………激ニブ。
でもって、啓介さんも当然気付いて………るワケねえんだよな。
あんま人んこと見てねえって言われてんだもん、今まさに…
でも。
何で啓介さんは全然気付いてねえの?
………オレは、気付いたのに?
.....続く
|