恋心〜素直な脈拍〜 作/ポポ様 

2002.11.6.up
この作品の続きを私が執筆
→GSへ。先方様ご許可済。

「ご愁傷様」
奈津実からのメールのタイトルだ。

昨日からはばたき学園の2年生になった春野小波は、
親友からのメールに少し戸惑っていた。

『よっぽど気に入られてんだね、ヒムロッチにv
もしかして、ヒムロッチ・・・アンタにLOVE?』

いつもの冗談だとは解っていも、なんだか心にひっかかる。

― そんなわけないじゃない。もぅ。

けれど、クラス発表の張り紙を見た氷室学級の生徒の中で、唯一人
「今年も氷室先生が担任なんだぁ。嬉しいなぁ。」
と呟いた生徒である事もまた事実。

そして、全生徒から恐れられている、数学教師氷室零一、その人はと言えば
ホームルームを行うため、自分のクラスへと向っていた。

「氷室先生、何か良いことでも?」
彼もまた、国語教師の言葉に戸惑っていた。

― ”良い事”など、あるはずもない。

ただ・・・、今年も彼女が氷室学級の生徒になるとわかっただけのことで。
そう、春野小波、彼女は今年も氷室学級のエースとして活躍してくれるだろう。
それは「良い事」では、ある。

小波は学年首位の成績を誇りながらも、運動・部活動・委員会活動
全てに全力投球で臨み、どの分野でもトップをキープし続けている。

― あまりスポーツに向いているとは言い難い身体能力しか持たない私としては
ただ感心・・・いや、むしろ「尊敬」するばかりだ。

氷室は自分の気持ちを「尊敬」と位置づけていた。


「小波!」
件のメールを送りつけてきた奈津実が、教室に入ってきた。
「ちょっとぉ、聞いたよ。アンタ、氷室先生が担任で嬉しい!とか言ってたんだってぇ?」
信じられないという顔つきで言う。

「うん。だって、嬉しかったから。」
小波は、ホームルームに備えて、5時限目の教科書をかばんにしまいながら、笑顔で答える。
「あれあれぇ?もしかして、アンタもヒムロッチにLOVE×LOVE?」
「もぉ、なっちん!!そんなんじゃないよ。氷室先生は数学だけじゃなくて
どの教科の事を質問しても答えられる、すごい先生なんだよ。」
「だから、惚れちゃったってことぉ〜?」
あくまでもからかう奈津実に小波は
「だからぁ、尊敬。そう、尊敬しているの。」
顔を赤くしながらも、反論している。

小波もまた、自分の気持ちを「尊敬」と位置づけているようだ。



ガラリと教室のドアを開けて、氷室が入ってきた。
「藤井。君のクラスでもホームルームの時間だろう。早く教室に戻りなさい。」
開口一番注意された奈津実は、そそくさと教室に戻る。
「終わったらすぐ来るから。」
こっそりと、それだけ言い残して。

そして、ホームルームが終わると、その言葉通り、奈津実はすぐさまやってきた。
「ねぇねぇ、昨日出た雑誌の心理クイズ見た?」
雑誌を握り締め、興奮気味に話しだす。

「見てないけど・・・、私ちょっと先生に質問があるから、待っててくれる?」
「何よぉ。まぁ、いいや、ねぇねぇ、心理クイズやらない?」
小波に断られると、隣の席の女生徒に話しかけている。
― なっちんは本当、ひとなつっこいよねぇ。

新学期そうそう、数学で解らない所があった小波は
「せんせぇ、ここが解らなかったんですが・・・。」
黒板を消し終えた氷室に声を掛けた。
「ここは、この公式を使って・・・。」
氷室も小波に向き直って説明を始める。

一年生の途中から、ホームルームの後で必ず見られる風景。
次の授業がないため、ゆっくりと質問が出来るから
ホームルームの後は小波のお気に入りの時間だ。

それは氷室にとっても同じこと。
勉強熱心な生徒のためならば、時間は惜しまない彼のこと
毎回的を得た質問をし、また教えればそれを吸収して行く
小波とのこの時間は、なんとも充実した時間なのだ。

「あ!そうか・・・。」
何かを掴んだ様で、小波はペンを走らせている。
氷室はその文字を目で追いながら、時折小さく頷いている。

「じゃぁ、目を瞑って!私がこれから言う色を聞いて、思い浮かぶ人の名前をここに
書いてね。」
後ろでは奈津実が心理クイズを始めたようだ。

雑誌を教室に持ち込むとは何事だ!
氷室がそう言い書けた時、小波に
「先生、ここまでは出来ましたが、どうしても、この答えを導きだせません。」
と質問を投げかけられ、勢いをそがれてしまった。
「先ほどの公式は使ってみたのか?」
「これですよね?」
「それではない。良く考えてみなさい。」
小首をかしげながらも、懸命に考える小波の姿を、微笑ましく見つめる氷室。

「まず最初は、緑。考えちゃダメだからねぇ。ぱっと思い浮かんだ人だよ。」
聞くともなしに聞いていた氷室は、ふと幼馴染の顔を思い浮かべていた。
小波はまたペンを走らせ始めた。

「次は、白!すぐ書いて!」
奈津実の声に、今度は大学時代の恩師の顔。
小波もふと手を止めて、考えているような顔をする。

「もう、出来たのか?」
氷室の声に、はっと顔をあげ、小波は
「はい。やっと出来ました。ありがとうございます。」
と微笑んだのだが、
「次は、赤!!ほら、すぐ書いて!!」
何故かこの声に、氷室の顔が浮かんできて、そのまま氷室を見つめてしまう。

氷室は氷室で、その視線を受け止めながら
― なぜ、ここで春野の顔が出てくる・・?彼女は、どちらかと言えば白のイメージだが・・・
考え込んでいた。

互いに己の思考の中に入り込み、しばしの間見詰め合う。
「はい。じゃぁ、発表しま〜す。」
今では二人の耳は、奈津実の声に集中していた。

「緑!これは親友を表します!・・・どう?合ってた?」

― フム。まぁ、あいつは親友と呼べなくもない、な。

― なっちんを思い浮かべちゃったよ。

「白は、『尊敬』する人。」

― ほぉ。なかなか侮れないものだな。確かに私は恩師を尊敬している。

― やだぁ、尽を思い浮かべちゃったのにぃ。

「赤・・・これはですねぇ。」

― 赤・・・春野を思い浮かべた色だったな。

― どうして、先生だったんだろう・・・先生って白ってイメージ持ってたのに
なぁ。

「ずばり、好きな人ですぅ!!!うっそぉ〜、アンタまどかって書いてるじゃん!」






― ・・・・・・・・・・・・・!!!!!な、何ぃ!!!

― えぇ!!す、好きな人ぉ?!





完全に二人の思考は混乱の渦の中にあった。

― なに、を、根拠に!・・・・・だが、しかし・・。

― うそぉぉ・・・・、でも、わたし・・。




「ちょっと、ちょっとお二人さん?何赤い顔して見詰め合ってるの?」
奈津実の声で初めて見詰めあっていた事に気づいた二人。
慌てて視線を逸らしながらも、動揺は隠せない。

「コホンっ!やっと出来たようだな。春野、この問題は予習復習を真面目に行っていれば、
簡単に解けたはずだぞ!学生たるもの、寸暇を惜しんで勉強しなさい。」
氷室はあたふたと、教室を立ち去る。
「は、はい、あ、す、すみません!」
小波は真っ赤な顔で、机に戻る。

「ヒムロッチ、荷物全部置きっぱなし・・・。ねぇ、小波。」
奈津実はさっきまで小波が書いていたノートに目を落として
「アタシが見ても間違ってるのわかるんだけど?」
全くでたらめな公式が書き連ねてあるノートがそこにはあった。



心理クイズの結果を、否定できない自分に気が付いた二人は
恋の公式の一つ目を見つけたばかり。
正しい答えを導き出すのは、まだ少し先のお話・・・・。



終     

リクエスト:在学中。無自覚だった恋心を、二人が同時に自覚した瞬間。   

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