「…おい」
「え」
「………お前、いつまでそうやってんだよ」
宮田は少々咎めるような口調で、呟いた。
寝室にある、ベッドの中。
つらつらと、非常に気持ちよく微睡んでいる──のだが。
誰かさんの手が、いつまでも体に触れるのをやめないので、ちょっと訊いてみたくなった。
──因みに。
その手が誰のものか、なんて、宮田には最初からわかっていることである。
ここには二人しかいない。
第一、触れるのを許したのは、一人だけだから。
「え、えーと………イ、イヤだった…?」
「…別にいいけど………よく飽きないなと思っただけ」
髪を梳いたり、頬や肩を撫でたり。
宮田が寝入る頃、一歩は、決まってそんなふうに触れてくる。
それはくすぐったいくらいに優しい感触で、あたたかくて。
だから、イヤであるはずがなかった。
「………だって、こういうときしかできないし」
「何が」
「だから…」
言って、一歩は宮田の頬にあてていた手の親指の腹で、ゆっくりと宮田の唇のラインをなぞった。
そのまま手指を、首筋から、鎖骨、肩へと下ろしていく。
「…こういうこと、全部」
「………ふぅん」
思い立って、宮田は一歩の顎に手を掛け、緩く開いた唇に、そっと口づけてみた。
僅かに離れると、ちょっとだけ物足りなさを感じて、もう一度重ねてみる。
舌をそろりと入れるとすぐに彼の舌と触れ合う。絡めたり、放したり──お互いに同じように繰り返して、じゃれるように遊んでみる。
これがなかなか最初は慣れなかったんだよな、と宮田が思ったとき、ジン、と甘い疼きが体の中心を走った。
「…これも、こんなときじゃないとってヤツだよな」
離れ際、一歩に聞こえないように小さく言って、クスリと微笑ってから、宮田は改めてお伺いを立ててみた。
「で、どうする?」
濡れた黒曜の瞳を瞬かせ、下から一歩の顔を覗き込んだ。
「は? ど、どうって………」
「第2R」
「な、何のこと?」
「だから、セックス」
瞬間、真っ赤に染まった一歩の顔に、宮田は思わずプッと噴き出した。
クスクス笑いをジトッと未だ赤い顔で咎められ、宮田は何とか表面上だけは笑うことを堪えた。
「オレはどっちでもいいけど」
涼しい顔でサラリと赤裸々なことを言ってのける宮田に、一歩は憤死しそうになりながらも、何とか踏ん張った。
ともかく、言葉はどうあれ、求めるモノは同じなのだから。
「………宮田くんて、答えがわかってるのに訊くよね、いつも」
「さあ、どうかな。………で、リタイア? それとも………」
宮田の言いかけた言葉は、息ごと一歩に呑み込まれた。
それは、返事の代わりであると同時に──
第2R開始の合図でもあった。
終
|