男にしては長めの髪が、肩からサラリと流れ落ちる。
その一部は、汗に濡れた首筋に張り付いた。
「…う、ぁ…っ」
吐息と掠れた声とが混じり合って、半ば開いていた口から漏れる。
欲に濡れた漆黒の瞳と、火照った頬が、艶かしく目に映る。
必死で声を堪えながらそれでも漏れてしまった声音は、あくまで慎ましやかで、だからこそより扇情的で。
そんな姿態を曝す北見に、テルはゾク、と快感が背筋を走り抜けるのを感じた。
…最早この欲望を抑えようとは思わない。
テルは沸き上がる欲に素直に身を任せ、抱えていた彼の膝を更に左右に拡げた。そして、彼と繋がった部分の、更に奥を強く穿った。
途端、ビクンと彼の体が跳ねる。
それに気を良くし、テルはうっすらと笑みを掃いて、彼の耳元で囁いた。
「なァ……、北見、気持ちイイ?」
テルの小さな囁きすらも刺激になるのか、北見は肩を竦ませてきつく目を瞑った。睫毛が震えるほど、きつく。
…そうやって視界を閉ざすのは、そんなテルの戯言を聞く気などないという、意思表示なのか。
何も答えようとしない北見に、テルは優しく耳朶を唇で啄んで、再度言葉をねだる。
「北見…なあ、答えろよ。気持ちイイ? よくない? …言ってくんなきゃ、オレわかんねーからさ…」
甘えた声を出す割に強引なテルを、北見は目を見開いてギッと睨み付けた。
「…貴様…ッ! …どのツラ下げて…ンなこと……!」
──わかってるくせにクソ忌々しい…!
そう言わんばかりの顔つきで、北見はテルに毒づいた。
だが、その北見の目元は赤く熟れ、瞳は潤みを帯びて、その奥は欲に煙っている。
普段は冷たさが際立つ切れ長の目も、今はただテルの性欲を煽るばかりで、その視線は誘っているようにしか見えなかった。
北見の体は明らかに彼自身を裏切って、テルの動きに過剰な反応を示している。
じわじわと、内部に侵入したテルを咀嚼するかのように蠢く後肛が、テルを求めているのがわかる。
けれど、そう易々と直接的な言葉を北見は言わない。いつも、そうだ。
欲しくても欲しいとは言わない。本心を見せず、荒ぶる欲に従うことを良しとせず、意地を張る。
…そのくせ、北見の口とは裏腹に、彼の体は素直に快楽に耽り、テルに誘いを掛けてくるのだ。
矛盾しているこの事実を、北見は認めたくないに違いない。
羞恥に頬を染め、全身を震わせて、テルに身を任せている己の姿から目を背けようとするのは、おそらくそういうことだろう。
──アンタがそんなだから、わざと言わせたくなるんだよ。
と、テルは内心で北見に呟き、微かに苦笑した。
我侭だと、テル自身わかってはいるのだ。
北見の性格だって、気持ちだって、わかっているつもりだ。だから、この行為に多少なりと背徳感を感じている北見が、テルを欲しいと自ら言い出すわけがないことも、理解している。
だが、それでも言ってほしいと思う。
北見がテルの腕の中で抵抗しないというだけで、北見の想いは十分すぎるほど伝わっているのに、それでは飽きたらず言葉までも引き出したいと願っているのだ、自分は。
テルは己の強欲さに苦笑した。
半ば自分でも呆れている。
でも、とまらない。
北見にもっと欲しがってもらいたいという欲求を、とめられない。
深く繋がったまま腰を揺らすと、その度に北見の喉から呻き声が断続的に漏れた。
その声に、テルの中で強烈な欲望が押し寄せてくる。
組み敷かれた北見は快楽に耐えようと、眉間に寄る皺は深くなり、けれど閉じられない口の端からは唾液が滴り落ちていた。
…こんなふうに、いつも禁欲的に見える北見が性欲に翻弄される姿を目の当たりにすればするほど、テルの欲望は肥大してくる。
「北見…っ」
──これ以上、オレをアンタに溺れさせて、どうすんだよ?
加速度的に北見に惹かれていく自分をとめる術はない。
熱に浮かされた眼差しで、テルは動かないまま北見を見つめた。
暫くすると、北見はゆるりと顎を上げ、テルを見上げてくる。
形の整った薄い唇の奥で、赤い舌が見え隠れする。
喉を上下させ、テルを呼ぼうとするその仕草に、ほんの少しの歓喜がテルの心に芽生えた。
──オレが、欲しい?
テルは敢えて問わなかった。
ただ、北見と真っ直ぐ視線を合わせる。
そうしていれば、北見は欲しい答えをきっとくれる──そんな気がした。
終
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